東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2135号 判決 1977年12月19日
控訴人(債務者)
山本冷子
右訴訟代理人
斉藤勝
亡川上政子遺言執行者・参加人
渡辺洋一郎
被控訴人(債権者)
川上一郎
右訴訟代理人
和田栄一
主文
原判決を取消す。
東京地方裁判所八王子支部が同庁昭和五一年(ヨ)第二一〇号仮処分命令申請事件につき、昭和五一年四月三〇日なした仮処分決定を取消す。
被控訴人の本件仮処分命令申請を却下する。
訴訟費用(参加によつて生じた分を含む。)は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一本件不動産は、亡政子の所有であつたところ、同女は昭和五一年一月一八日、死亡したこと、同女は遺言をなし、その遺言の執行者として、甲府家庭裁判所は同年五月二四日、参加人を選任したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二<証拠>によると、乙第一号証の一、二は、亡政子の自筆であることが疎明されるところ、右各号証によると、亡政子は昭和五〇年七月一日、その所有財産の一切を山下正夫に遺贈する旨の自筆証書遺言書を作成し、右遺言書は、一応の要件を備えていることがうかがわれる。
三ところで、右遺言の内容によると、山下は包括受遺者であり、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するところ、山下が自己のために包括遺贈のあつたことを知つた時から三か月内に遺贈の放棄をした旨の主張・疎明のない本件においては、山下は相続開始と同時に亡政子の一切の権利義務を承継し、本件不動産の所有権も、山下が取得したものと理解せざるを得ない(このことは、相続人がある場合でも変りはなく、ただ相続人の遺留分減殺に服するだけである。)。
そうすると、本件不動産については、遺言執行者たる参加人は、その職務の執行として、山下と共同申請人となり山下のために所有権移転登記手続をすべきところ、被控訴人が本件仮処分の執行としてなした本件仮処分登記は、そのための障害となるのであるから、参加人は、その抹消を求めたうえ、右移転登記手続をすべきである。したがつて、被控訴人の本件仮処分の執行は、参加人が遺言執行者に選任されたことによつて、遺言の執行を妨げる行為となつたのであり、被控訴人は相続人として、右の妨害は許されないのであるから、結局、本件仮処分決定は、それによつて保全されるべき請求権を欠くこととなつて(もとより、疎明に代わる保証を立てしめるのを相当とすべき事案ではない。)、取消しを免れないといわざるを得ない。
四右のことは、参加人が遺言執行者として、本件不動産につき排他的な管理権を取得し、他方、相続人がこれを失うこととなつたからにほかならないから、本件仮処分決定の取消しを求めるための本件異議訴訟の追行権も遺言執行者たる参加人に帰属し、相続人としての控訴人がこれを失つたものというべきである。したがつて、本件訴訟手続は、参加人が遺言執行者に選任された時点において、控訴人が当事者適格を失い、参加人が法定訴訟担当者として当事者適格を有することになつたのであるから、その時に中断し、参加人はその訴訟手続を受継する必要があつたと解される。
しかるところ、参加人の本件参加の申立ては、参加人が遺言執行者として、本件不動産につき排他的な管理権を有することを理由とし、本件仮処分決定の取消を求めるものであり、右にいう受継の申立てと理解することができるから、これを受継の申立てと認めて許可すべく、本件訴訟手続においては、参加人を控訴人の訴訟手続の受継者と見るのが相当である。
次に付言するに、本件訴訟手続は、遺言執行者が選任された時点において中断しているのであるから、これを看過してなした訴訟行為の効力の問題が残る。しかしながら、本件においては、いずれの当事者からも、右の点につき異議・故障の申出がなく、当事者双方が責問権を放棄した場合に該当するので、右訴訟行為はいずれも有効と解される。
五以上の次第であるから、本件異議の申立ては理由があり、本件仮処分決定を取消して、被控訴人の本件仮処分命令請申を却下すべきところ、本件仮処分決定を認可した原判決は不当であるから、本件控訴理由がある。
よつて、原判決を取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九六条を、仮執行の宣言につき、同法第七五六条の二をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)